彼女の名前は、びわ。
フランスでは、その年に生まれた犬につける登録名の頭文字が決まっている。
2026年はB。去年はAで、来年はC。
フランスで生まれ、フランスで育つ犬だけれど、できれば日本語の名前をつけたかった。
一昔前のおばあちゃんのような名前。
あるいは、芸妓のような名前。
松子、竹子、梅。
雛菊、市駒。
でも、B。
薔薇、牡丹、紅。
そうだ、紅がいい。かわいい名前だ。
そう思ってフランス人の夫に提案したけれど、Bennyは英語圏では男性の名前だから、と却下された。
ならば文学の香るボーヴォワールやボールドウィンはどうだ、と提案してみた。
けれど、フランスの公園で
「ボーヴォワール! おいでー!」
と叫ぶ自分を想像して、これもやめた。
BIWA
枇杷の実。
遠い昔からある楽器、琵琶。
そして、美しい湖の名前。
それが彼女の名前になった。
漢字は、枇杷。
夏生まれの彼女には、果物の名前がよく似合う。
今日、夫がふいに「びわち」と呼んでいた。
なぜ「びわち」なのかと聞くと、
「日本では丁寧に人を呼ぶとき、shiをつけるでしょう。それだよ」
shi。
……氏のことだろう。
枇杷氏。
フランス語では shi が「シ」ではなく「チ」に近く聞こえる。
その結果、たまごっちのような名前になった。
びわっち。
まあ、これはこれでかわいい。

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